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直動運動する負荷トルクの計算例②
ここではモーターの回転による直動系のイナーシャによるモーター負荷トルクついて実際に計算してみます。
ワークギヤとモーターギヤのギヤ比が異なるの場合の計算例です。
【モーター負荷トルク計算】
右図ようにラック&ギヤがあり、可動体ワークはラックに固定
されています。ギヤはモーターに直結されています。
モーターギヤが回転することにより、ラックと可動体ワークが
(水平)直動運動します。
モーター負荷トルクTを求めましょう。
但し、
・モーター従動ギヤ半径:r=3(cm)
・モーター従動ギヤ質量:Mr=25(g)
・モーターギヤ半径:R=1.5(cm)
・モーターギヤ質量:Mm=12.5(g)
・ラック質量:Mc1=50(g)
・可動体質量:Mc2=200(g)
・加速(減速)時間:t1(t3)=0.1(s)
・等速時間:t2=0.2(s)
・モーター回転角度:θ=450(°)
・ラック&可動体移動量:E=4(cm)
↓
・モーター1回転当たりの移動量:A=360x4/450=3.2(cm/rev)
(A=(360xE/θ)xギヤ比)
モーター負荷トルクTは下記式で求められます。
T=Tr(加速トルク)+Tc(外的負荷トルク)
※外的負荷トルクは主に摩擦トルクのことです。
それぞれを求めてみましょう。
●まずは、加速度によって生じる物体のイナーシャによる
負荷トルク(Tr)を求めます。
この時、回転系の負荷と直動系の負荷に分けて考えます。
回転運動系のイナーシャは、<モーターギヤ>になります。
直動運動系のイナーシャは、<ラックとワーク>になります。
・回転運動系イナーシャIr (g・cm・s2)
Ir=(GD^2/4)/g=Jr/g
ここで、Jr= Mr x K^2 = Mr x (r^2/2) (g・cm2)
(Kの2乗) (rの2乗/2)
但し、Mr:質量(モーターギヤの質量) (g) r:回転半径(モーターギヤの半径) (cm)
g:重力加速度 980 (cm/s2)
より、
Ir(従動ギヤ)=25x(3x3/2)/980=0.11 (g・cm・s2) Ir(従動ギヤ)=0.11 (g・cm・s2)
Ir(モーターギヤ)=12.5x(1.5x1.5/2)/980=0.11 (g・cm・s2) Ir(モーターギヤ)=0.01 (g・cm・s2)
・直動運動系イナーシャIc (g・cm・s2)
Ic=(GD2/4)/g=Jc/g
ここで、
直動運動する物体のイナーシャ(慣性モーメン)の式
↓
Jc=Mc x (A/2π)^2 (g・cm2)
(A/2π)の2乗
但し、Mc:質量(ラックとワークの質量) (g) g:重力加速度 980 (cm/s2)
A:単位移動量 (cm/rev)
↑単位:モーター1回転当たりの移動量(cm)
より、
Ic=(50+200)x(3.2/2xπ)x(3.2/2xπ)/980=0.07 (g・cm・s2) Ic=0.07 (g・cm・s2)
よって、加速トルクTrは、
回転系(従動ギヤ)の加速トルク: Tr= Ir x(モータギヤ/ワークギヤ)^2 x ω'=0.11 x (1.5/3)x(1.5/3) x ω'
<下記のpoint参照:↑従動ギヤが対象で、モーターギヤは直結してるので、ギヤ比は1>
回転系(モーターギヤ)の加速トルク: Tr= Ir x ω'=0.01 x ω'
直動系の加速トルク: Tr= Ic xω'=0.07 x ω'
但し、Ir :回転運動系 イナーシャ (g・cm・s2) Ic :直動運動系 イナーシャ (g・cm・s2)
ω' :モーター 角加速度 (rad/s2)
モーター側とワーク側のギヤ比が異なる場合、(ワーク側の)負荷イナーシャはギヤ比の2乗に比例します。
リンクレバーなどを用いて、ワークの移動量を変える場合も同様で、例えばリンク比を1:3にして、ワークの移動量
を3倍にした場合、ワークのイナーシャは3の2乗=9倍になります。
直動系のイナーシャの式は、Jc=Mc x (A/2π)^2 (g・cm2)です。
(A/2π)の2乗
Aは、モーター1回転当たりの移動量なので、2乗に比例していることが、分かります。
つまり、回転系でも直動系でも、ギヤやリンクなどを用いて移動量(運動量)を変化させると、イナーシャは、その比
(変化量)の2乗に比例します。
モーター側とワーク側のギヤ比が異なる場合、(モーター軸換算される)負荷トルクの基本式は下記になります。
【回転系負荷トルク】
T= 〔Ir x (モータギヤ/ワークギヤ)^2〕 x ω'
(モータギヤ/ワークギヤ)の2乗
↑ここで、ワークイナーシャを(ギヤ比に応じて)モーター軸換算して計算してます。
【直動系負荷トルク】
T= Ic x ω'
但し、Ic=Jc/gで、Jc=Mc x (A/2π)^2 です。
(A/2π)の2乗
↑ここで、ワークイナーシャを(レバー比に応じて)モーター軸換算して計算してます。
このように、ギヤ比を変えることで、ワークイナーシャを大幅に軽減できます。
モーターの許容イナーシャをワークイナーシャが超えないようにするには、有効な手段の1つと言えます。
モーターの許容イナーシャとワークイナーシャの関係については、↓下記を参照して下さい。
●ω'を求めます。
(最高)角加速度ω' (rad/s2)
基本駆動波形は、上図のような基本台形波です。
まずは最高角速度ωを求めます。
回転角度は台形の面積となるので、 ωx(t1+t2)=θxπ/180 (rad/s)
但し、
t1、t2はX軸の時間 (s) θは回転角度 (°)
ω=θxπ/(180x(t1+t2)) (rad/s)
より、
ω=450xπ/(180x(0.1+0.2))=26.17 (rad/s)
ここで、求める最高角加速度ω'は台形波の斜辺となります。
よって、
ω'=ω/t1=〔θxπ/180x(t1+t2)〕/t1 (rad/s2)
より、
ω'=26.17/0.1=261.7 (rad/s2) ω'=261.7 (rad/s2)
よって、
回転系(従動ギヤ)の加速トルク:Tr=Ir x(モータギヤ/ワークギヤ)^2 x ω'
=(0.11) x (1.5/3)x(1.5/3) x 261.7 =7.20 (g・cm)
回転系(モーターギヤ)の加速トルク:Tr=Ir x(モータギヤ/ワークギヤ)^2 x ω'
=0.01 x 261.7 =2.62 (g・cm)
回転系の加速トルク:Tr =7.20+2.62=9.82 (g・cm)
直動系の加速トルク:Tr=Ic xω' =0.07x261.7=18.32 (g・cm)
回転系の加速トルク Tr=9.82 (g・cm)
直動系の加速トルク Tr=18.32 (g・cm)
●次に外的負荷(バネや摩擦など)によって生じる物体の外的負荷トルク(=摩擦トルク)Tcを求めます。
直動運動する外的負荷トルク(摩擦トルク)の式
↓
Tc=F x D/(2 x n x i) (g・cm)
水平の場合:F=Fa + μx N
↑バネ力など ↑摺動抵抗(Nは垂直抗力)
傾きがある場合:F=Fa + mg x (sinθ + μcosθ) ←(μx Nを分解した式)
↑バネ力など ↑傾き方向の力 ↑垂直方向の力
但し、F:直動運動方向の力 (gf) D:最終(ワーク側)ギヤ直径 (cm) n:効率(0.85~0.95) i:減速比
Fa:外力(バネなど) (gf) μ:摺動面の摩擦係数(0.05) N:垂直方向荷重(=mg) (gf)
m:ワークとラックの総質量 (g) g:重力加速度 980 (cm/s2) θ:傾き角度 (°)
では、まずはFを求めます。
F=Fa+μNですが、Faはバネ力などの外力なので今回は作用していないので"0"です。
よって、
F=μN=μx mg= 0.05x(50+200)x980=12250x10-5〔N〕=12.5〔gf〕 F=12.5(gf)
(10の-5乗)
〔単位系比較〕
F=μN=μx mg= 0.05x(0.05+0.2)x9.8=0.1225〔N〕=0.0125〔kgf〕 F=0.0125(kgf)
混乱しやすいので注意が必要です!
上述の式で、摺動抵抗(摩擦力f)がμNとなっています。
摩擦力fは、f=μN=μx mg です。
ここで注意が必要です。fには重力加速度が存在します。単位系が(cm/s2)ですので、単純にgfとはならないのです。
f=μxmgの単位系は〔mNまたはN〕
であって、〔gfまたはKgf〕とはならないので注意しましょう。
ちなみに、
●質量の単位が〔kgf〕なら重力加速度gは9.8(m/s2)で、mgは〔N〕
●質量の単位が〔gf〕なら重力加速度gは980(cm/s2)で、mgは x10^-5〔N〕
●9.8〔N〕は、1〔kgf〕
以上で、外的(摩擦)負荷トルクが下記のように計算できます。
Tc=Fx D/(2xnxi)
ここで、減速比iを考えます。
モーターギヤが1回転すると、従動ギヤは1/2回転します。上図のようなラック&ピニオンの構造なので、ラックは
従動ギヤから伝達されるため、減速比 i=モータギヤ/従動ギヤ になります。
Tc=12.5x (3x2) /(2x0.95x 1.5/3)
↑F ↑D ↑n ↑ギヤ比(=モータギヤ/従動ギヤ)
= 75/0.95 =78.95 (g・cm) 外的負荷トルク Tc=78.95 (g・cm)
ここで考えましょう。直動系の加速トルクと外的(摩擦)負荷トルクについてです。
この負荷が【加速時】と【減速時】にモータに負荷をかける方向に働くのか、それともモーターの負荷軽減する方向に働くのか、計算上プラスになるのかマイナスになるか?を考える必要があります。
また、【行き】【帰り】についても同様に考える必要があります。
●加速時→【加速トルク】は、モータに負荷をかける方向に働くので、計算上プラスになります。
【外的負荷トルク】は、加速しようとしているのにブレーキをかける方向に働きます。
つまり、負荷をかける方向に働くため、計算上プラスになります。
●減速時→【減速トルク】も加速トルク同様に、モータに負荷をかける方向に働くので、計算上プラスになります。
【外的負荷トルク】は、減速しようとしているものに更にブレーキをかけて助ける方向に働きます。
つまり負荷を軽減する方向に働くため、計算上マイナスになります。
●行き、帰り→水平のため、特に考慮しなくても大丈夫ですが、上りや下りのように重力に逆らうような場合は、この部分も
考慮する必要があります。
以上より、モーターへの最大負荷は加速時に発生することが分かります。
ここで、上述で計算した結果をまとめます。
回転系の加速トルク Tr=9.82 (g・cm)
直動系の加速トルク Tr=18.32 (g・cm)
外的(摩擦)負荷トルク Tc=78.95(g・cm)
加速時に発生する、モーター最大負荷トルクは、
T= Tr + Tc
↑回転&直動系の加速トルク ↑外的負荷トルク(=摩擦トルク)
より、
T=(9.82+18.32)+78.95=107.09 (g・cm) モーター最大負荷トルクT=107.09(g・cm)
【補足①】
モーターを選定をする際は、これに安全率を考慮して選定しましょう。
一般的には、安全率2倍(S=2)で考えます。
上記の計算例の場合、モータを選定する際は、最大加速時に発生する(最高速度到達付近=最高速度pps時)
T=107.09x2=214.18(g・cm)を目安に(最大速度時に214.18(g・cm)程度のトルクを持つ)モータを選定するのが良いでしょう。
【補足②】
モーター選定の際は、モーターの許容イナーシャと負荷イナーシの関係を考慮(ステッピングモーターならばイナーシャ
比10倍以下)する必要があります。





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