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直動運動する負荷トルクの計算例④
ここでは直動系イナーシャのモーター負荷計算におけるワーク運動が垂直運動の場合の計算例を紹介します。
【モーター負荷トルク計算】
右図ようにラック&ギヤがあり、可動体ワークはラックに固定され
ています。
モーターギヤが回転することにより、ラックと可動体ワークが垂直
上下運動します。
モーター負荷トルクTを求めましょう。
但し、 ・モーター従動ギヤ半径:r=3(cm)
・モーター従動ギヤ質量:M3=30(g)
・モーター直結ギヤ半径:R=5(cm)
・モーター直結ギヤ質量:M4=50(g)
・ラック質量:M2=40(g)
・可動体質量:M1=600(g)
・加速(減速)時間:t1(t3)=0.2(s)
・等速時間:t2=0.4(s)
・モーター回転角度:θ=720(°)
・ラック&可動体移動量:E=10(cm)
↓
・モーター1回転当たりの移動量:
A=(360x10/720)x(5/3)=8.3(cm)
↑ギヤ比=(モータギヤ/ワークギヤ)
(A=(360xE/θ)xギヤ比)

モーター負荷トルクTは下記式で求められます。
T=Tr(加速トルク)+Tc(外的負荷トルク)
※外的負荷トルクは主に摩擦トルクのことです。
【回転系負荷トルク】 【直動系負荷トルク】
T= 〔Ir x (モータギヤ/ワークギヤ)^2〕 x ω' T= Ic x ω'
(モータギヤ/ワークギヤ)の2乗 但し、Ic=Jc/gで、Jc=Mc x (A/2π)^2 です。
(A/2π)の2乗
それぞれを求めてみましょう。
●まずは、加速度によって生じる物体のイナーシャによる負荷トルク(Tr)を求めます。
この時、回転系の負荷と直動系の負荷に分けて考えます。
回転運動系のイナーシャは、<モーターギヤ>になります。
直動運動系のイナーシャは、<ラックとワーク>になります。
・回転運動系イナーシャIr (g・cm・s2) を求めます。
Ir=(GD^2/4)/g=Jr/g
ここで、Jr= Mr x K^2 = Mr x (r^2/2) (g・cm2)
(Kの2乗) (rの2乗/2)
但し、Mr:質量(モーターギヤの質量) (g) r:回転半径(モーターギヤの半径) (cm)
g:重力加速度 980 (cm/s2)
より、
Ir(従動ギヤ)=30x(3x3/2)/980=0.14 (g・cm・s2) Ir(従動ギヤ)=0.14 (g・cm・s2)
Ir(モーターギヤ)=50x(5x5/2)/980=0.64 (g・cm・s2) Ir(モーターギヤ)=0.64 (g・cm・s2)
・直動運動系イナーシャIc (g・cm・s2) を求めます。
Ic=(GD2/4)/g=Jc/g
ここで、
直動運動する物体のイナーシャ(慣性モーメン)の式
↓
Jc=Mc x (A/2π)^2 (g・cm2)
(A/2π)の2乗
但し、Mc:質量(ラックとワークの質量) (g) g:重力加速度 980 (cm/s2)
A:単位移動量 (cm/rev)
↑単位:モーター1回転当たりの移動量(cm)
より、
Ic=(40+600)x(8.3/2xπ)x(8.3/2xπ)/980=1.14 (g・cm・s2) Ic=1.14 (g・cm・s2)
よって、加速トルクTrは、
回転系(従動ギヤ)の加速トルク: Tr= Ir x(モータギヤ/ワークギヤ)^2 x ω'=0.14 x (5/3)x(5/3) x ω'
<補足:↑従動ギヤが対象で、モーターギヤは直結してるので、ギヤ比は1>
回転系(モーターギヤ)の加速トルク: Tr= Ir x ω'=0.64 x ω'
直動系の加速トルク: Tr= Ic xω'=0.14xω'
但し、Ir :回転運動系 イナーシャ (g・cm・s2) Ic :直動運動系 イナーシャ (g・cm・s2)
ω' :モーター 角加速度 (rad/s2)
●ω'を求めます。
(最高)角加速度ω' (rad/s2)
基本駆動波形は、右図のような基本台形波です。
まずは最高角速度ωを求めます。
回転角度は台形の面積となるので、
ωx(t1+t2)=θxπ/180 (rad/s)
但し、
t1、t2はX軸の時間 (s) θは回転角度 (°)
ω=θxπ/(180x(t1+t2)) (rad/s)
より、
ω=720xπ/(180x(0.2+0.4))=20.93 (rad/s)
ここで、求める最高角加速度ω'は台形波の斜辺となります。
よって、
ω'=ω/t1=〔θxπ/180x(t1+t2)〕/t1 (rad/s2)
より、
ω'=20.93/0.2=104.65 (rad/s2) ω'=104.65 (rad/s2)
よって、
回転系の加速トルク(従動ギヤ):Tr=Ir x(モータギヤ/ワークギヤ)^2 x ω'
=(0.14) x (5/3) x (5/3) x 104.65 =40.70 (g・cm)
回転系の加速トルク(モーターギヤ):Tr=Ir x ω' =0.64 x 104.65 =66.98 (g・cm)
直動系の加速トルク:Tr=Ic xω' =1.14x104.65=119.3 (g・cm)
回転系の加速トルク Tr=107.68 (g・cm)
直動系の加速トルク Tr=119.3 (g・cm)
●次に外的負荷(バネや摩擦など)によって生じる物体の外的負荷トルク(=摩擦トルク)Tcを求めます。
直動運動する外的負荷トルク(摩擦トルク)の式
↓
Tc=F x D/(2 x n x i) (g・cm)
水平の場合:F=Fa + μx N
↑バネ力など ↑摺動抵抗(Nは垂直抗力)
傾きがある場合:F=Fa + mg x (sinθ + μcosθ) ←(μx Nを分解した式)
↑バネ力など ↑傾き方向の力 ↑垂直方向の力
但し、F:直動運動方向の力 (gf) D:モーターギヤ直径 (cm) n:効率(0.85~0.95) i:減速比
Fa:外力(バネなど) (gf) μ:摺動面の摩擦係数(0.05) N:垂直方向荷重(=mg) (gf)
m:ワークとラックの総質量 (g) g:重力加速度 980 (cm/s2) θ:傾き角度 (°)
では、まずはFを求めます。
垂直なので、F=Fa+μN のN(=垂直抗力)は、”0”になります。
ここで、Faを考えます。
Faは、バネ力などの負荷になりますが、この場合、バネがないため、ワークとラックの総質量が、負荷になります。
もちろん、バネがある場合、バネ力とワークとラックの総質量の総和が負荷になりますが、バネ力が負荷をかける側に
なるのか、または、負荷を助ける側になるのかを考慮する必要があります。
本例題のようにバネ力がない場合は、
Fa= Fs + W = 40 + 600 = 640(gf) になります。
↑バネ力 ↑負荷となる総質量
ここで、〔上り〕と〔下り〕でFaは異なることに注意します。
●〔上り〕の加速時は、"+"になります。⇒ (トルクを助けない方向<モーターに負荷をかける方向>)
●〔上り〕の減速時は、"-"になります。⇒ ((トルクを助ける方向<モーターに負荷をかける方向>)
●〔下り〕の加速時は、"-"になります。⇒ (トルクを助ける方向<モーターに負荷をかけない方向>)
●〔下り〕の減速時は、"+"になります。⇒ (トルクを助けない方向<モーターに負荷をかける方向>)
より、〔上り〕と〔下り〕に分けてそれぞれのFaを求めます。
モーターに負荷をかける方向:〔上りの加速時〕〔下りの減速時〕 Fa=+640(gf)
モーターの負荷を助ける方向:〔上りの減速時〕〔下りの加速時〕 Fa=-640(gf)
⇒モーターに最大負荷をかけるのは、〔上りの加速時〕
よって、
直動運動する外的負荷トルク(摩擦トルク)は、Tc=F x D/(2 x n x i) (g・cm)より、
Tc = 640 x (3x2)/(2 x 0.95 x 5/3) =3,840/3.17 =1211.36
↑F(上り) ↑D ↑n ↑ギヤ比(=モータギヤ/従動ギヤ)
Tc=1211.36(g・cm)
ここで、上述で計算した結果をまとめます。
回転系の加速トルク Tr=107.68 (g・cm)
直動系の加速トルク Tr=119.3 (g・cm)
外的(摩擦)負荷トルク(上り) Tc=1211.36(g・cm)
”上り”の加速時に発生する、モーター最大負荷トルクは、
T= Tr + Tc
↑回転&直動系の加速トルク ↑外的負荷トルク(=摩擦トルク)
より、
T=(107.68+119.3)+1211.36=1438.34 (g・cm) モーター最大負荷トルクT=1438.34(g・cm)
ちなみに、”下り”の減速時に発生する、モーター負荷トルクは、
T=(107.68+119.3)-1211.36=-984.38 (g・cm)
この場合の”-”は、下り方向の意味なので、 モーター負荷トルクT=984..38(g・cm)
つまり、”上りの加速時”が、モーターへの最大負荷が、かかる状態といえます。











