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直動運動する負荷トルクの計算例③
ここでは直動系イナーシャのモーター負荷計算における傾きがある運動で、ワークギヤとモーターギヤのギヤ比が異なる
場合の計算例を紹介します。
【モーター負荷トルク計算】
右図ようにラック&ギヤがあり、可動体ワークはラックに固定
されています。ギヤはモーターに直結されています。
モーターギヤが回転することにより、ラックと可動体ワークが
(傾きθ°を保ちながら)直動運動します。
モーター負荷トルクTを求めましょう。
但し、
・モーター従動ギヤ半径:r=2(cm)
・モーター従動ギヤ質量:Mr=25(g)
・モーターギヤ半径:R=4(cm)
・モーターギヤ質量:Mm=50(g)
・ラック質量:Mc1=50(g)
・可動体質量:Mc2=200(g)
・加速(減速)時間:t1(t3)=0.1(s)
・等速時間:t2=0.2(s)
・モーター回転角度:θ=450(°)
・ラック&可動体移動量:E=4(cm)
↓
・モーター1回転当たりの移動量:
A=(360x4/450)x(4/2)=6.4(cm/rev)
(↑ギヤ比:モータギヤ/ワークギヤ)
(A=(360xE/θ)xギヤ比)
・バネ力取付時荷重:f1=250(gf) 下り最下点位置でのバネ力
・バネ力作動時荷重:f2=350(gf) 上り最上点位置でのバネ力
※ バネは圧縮コイルバネ(押しバネ)想定とします。
・傾き角度:θ=30(°)
モーター負荷トルクTは下記式で求められます。
T=Tr(加速トルク)+Tc(外的負荷トルク)
※外的負荷トルクは主に摩擦トルクのことです。
【回転系負荷トルク】 【直動系負荷トルク】
T= 〔Ir x (モータギヤ/ワークギヤ)^2〕 x ω' T= Ic x ω'
(モータギヤ/ワークギヤ)の2乗 但し、Ic=Jc/gで、Jc=Mc x (A/2π)^2 です。
(A/2π)の2乗
それぞれを求めてみましょう。
●まずは、加速度によって生じる物体のイナーシャによる負荷トルク(Tr)を求めます。
この時、回転系の負荷と直動系の負荷に分けて考えます。
回転運動系のイナーシャは、<モーターギヤ>になります。
直動運動系のイナーシャは、<ラックとワーク>になります。
・回転運動系イナーシャIr (g・cm・s2)
Ir=(GD^2/4)/g=Jr/g
ここで、Jr= Mr x K^2 = Mr x (r^2/2) (g・cm2)
(Kの2乗) (rの2乗/2)
但し、Mr:質量(モーターギヤの質量) (g) r:回転半径(モーターギヤの半径) (cm)
g:重力加速度 980 (cm/s2)
より、
Ir(従動ギヤ)=25x(2x2/2)/980=0.05 (g・cm・s2) Ir(従動ギヤ)=0.05 (g・cm・s2)
Ir(モーターギヤ)=50x(4x4/2)/980=0.41 (g・cm・s2) Ir(モーターギヤ)=0.41 (g・cm・s2)
・直動運動系イナーシャIc (g・cm・s2)
Ic=(GD2/4)/g=Jc/g
ここで、
直動運動する物体のイナーシャ(慣性モーメン)の式
↓
Jc=Mc x (A/2π)^2 (g・cm2)
(A/2π)の2乗
但し、Mc:質量(ラックとワークの質量) (g) g:重力加速度 980 (cm/s2)
A:単位移動量 (cm/rev)
↑単位:モーター1回転当たりの移動量(cm)
より、
Ic=(50+200)x(6.4/2xπ)x(6.4/2xπ)/980=0.26 (g・cm・s2) Ic=0.26 (g・cm・s2)
よって、加速トルクTrは、
回転系(従動ギヤ)の加速トルク: Tr= Ir x(モータギヤ/ワークギヤ)^2 x ω'=0.05 x (4/2)x(4/2) x ω'
<補足:↑従動ギヤが対象で、モーターギヤは直結してるので、ギヤ比は1>
回転系(モーターギヤ)の加速トルク: Tr= Ir x ω'=0.41 x ω'
直動系の加速トルク: Tr= Ic xω'=0.26xω'
但し、Ir :回転運動系 イナーシャ (g・cm・s2) Ic :直動運動系 イナーシャ (g・cm・s2)
ω' :モーター 角加速度 (rad/s2)
●ω'を求めます。
(最高)角加速度ω' (rad/s2)
基本駆動波形は、右図のような基本台形波です。
まずは最高角速度ωを求めます。
回転角度は台形の面積となるので、
ωx(t1+t2)=θxπ/180 (rad/s)
但し、
t1、t2はX軸の時間 (s) θは回転角度 (°)
ω=θxπ/(180x(t1+t2)) (rad/s)
より、
ω=450xπ/(180x(0.1+0.2))=26.17 (rad/s)
ここで、求める最高角加速度ω'は台形波の斜辺となります。
よって、
ω'=ω/t1=〔θxπ/180x(t1+t2)〕/t1 (rad/s2)
より、
ω'=26.17/0.1=261.7 (rad/s2) ω'=261.7 (rad/s2)
よって、
回転系の加速トルク(従動ギヤ):Tr=Ir x(モータギヤ/ワークギヤ)^2 x ω'
=(0.05) x (4/2) x (4/2) x 261.7 =52.34 (g・cm)
回転系の加速トルク(モーターギヤ):Tr=Ir x ω' =0.41 x 261.7 =107.30 (g・cm)
直動系の加速トルク:Tr=Ic xω' =0.26x261.7=68.04 (g・cm)
回転系の加速トルク Tr=159.64 (g・cm)
直動系の加速トルク Tr=68.04 (g・cm)
●次に外的負荷(バネや摩擦など)によって生じる物体の外的負荷トルク(=摩擦トルク)Tcを求めます。
直動運動する外的負荷トルク(摩擦トルク)の式
↓
Tc=F x D/(2 x n x i) (g・cm)
水平の場合:F=Fa + μx N
↑バネ力など ↑摺動抵抗(Nは垂直抗力)
傾きがある場合:F=Fa + mg x (sinθ + μcosθ) ←(μx Nを分解した式)
↑バネ力など ↑傾き方向の力 ↑垂直方向の力
但し、F:直動運動方向の力 (gf) D:最終(ワーク側)ギヤ直径 (cm) n:効率(0.85~0.95) i:減速比
Fa:外力(バネなど) (gf) μ:摺動面の摩擦係数(0.05) N:垂直方向荷重(=mg) (gf)
m:ワークとラックの総質量 (g) g:重力加速度 980 (cm/s2) θ:傾き角度 (°)
では、まずはFを求めます。
F=Fa+μN より、
傾きがあるので、右図からも分かるように、
F= Fa + mg x (sinθ+μcosθ) です。
ここで、〔上り〕と〔下り〕でFは異なることに注意します。
●〔上り〕では傾き方向の力mg*sinθは"+"になります。
(トルクを助けない方向<モーターに負荷をかける方向>)
●〔下り〕では傾き方向の力mg*sinθは"-"になります。
(トルクを助ける方向<モーターに負荷をかけない方向>)
よって、〔上り〕と〔下り〕に分けてそれぞれのFを求めます。
(↑傾き方向の力が異なる他、バネ力Faも異なってくるためです。)
混乱しやすいので注意が必要です!
下述の式で、バネ力Faの単位は〔gf〕です。
一方、摺動抵抗(摩擦力)mg*(sinθ+μcosθ)の単位は〔N〕です。
摺動抵抗(摩擦力)には重力加速度が存在します。単位系が(cm/s2)ですので、単純にgfとはならないのです。
f=μxmgの単位系は〔mNまたはN〕であって、〔gfまたはKgf〕とはならないので注意しましょう。
ちなみに、
●質量の単位が〔kgf〕なら重力加速度gは9.8(m/s2)で、mgは〔N〕
●質量の単位が〔gf〕なら重力加速度gは980(cm/s2)で、mgは x10-5〔N〕
●9.8〔N〕は、1〔kgf〕
以下、*はx(掛ける)の意です。
F=Fa+mg*(sinθ+μcosθ)
【上り時のFとTc】
F(上り)=f1〔gf〕 + mg*(sinθ+μcosθ) 〔g・cm/s2〕
=350〔gf〕 + (50+200)*980*(sin30+0.05*cos30) 〔g・cm/s2〕
=350〔gf〕 + 250*980*(0.5+0.05*0.87) 〔g・cm/s2〕
=350〔gf〕 + 133157.5*10-5 〔N〕
=350〔gf〕 + 135.875 〔gf〕=485.88 〔gf〕
F(上り)=485.9(gf)
〔単位系比較〕
F(上り)=f1〔kgf〕 + mg*(sinθ+μcosθ) 〔Kg・m/s2〕
=0.35〔kgf〕+ 0.25*9.8*(0.5+0.05*0.87) 〔Kg・m/s2〕
=0.35〔kgf〕+ 1.331575〔N〕
=0.35〔kgf〕+ 0.135875〔kgf〕=0.485875〔kgf〕
F(上り)=0.485(kgf)
Tc=〔485.9* (2*2)/(2* 0.95* 4/2) =511.47 (g・cm)
↑F(上り) ↑D ↑n ↑ギヤ比(=モータギヤ/従動ギヤ)
Tc<上り>=511.47 (g・cm)
F=Fa+mg*(sinθ+μcosθ)
【下り時のFとTc】
F(下り)=f2〔gf〕 + mg*(-sinθ+μcosθ) 〔g・cm/s2〕
=250〔gf〕 + (50+200)*980*(-sin30+0.05*cos30) 〔g・cm/s2〕
=250〔gf〕 + 250*980*(-0.5+0.05*0.87) 〔g・cm/s2〕
=250〔gf〕 + (-111842.5*10-5 ) 〔N〕
=250〔gf〕 + (-114.125) 〔gf〕=135.875 〔gf〕
F(上り)=135.9(gf)
〔単位系比較〕
F(下り)=f2〔kgf〕 + mg*(-sinθ+μcosθ) 〔Kg・m/s2〕
=0.25〔kgf〕+ 0.25*9.8*(-0.5+0.05*0.87) 〔Kg・m/s2〕
=0.25〔kgf〕+ (-1.118425)〔N〕
=0.25〔kgf〕+ (-0.114125)〔kgf〕=0.135875〔kgf〕
F(上り)=0.135(kgf)
Tc=〔135.9* (2*2)/(2* 0.95* 4/2 )143.05 (g・cm)
↑F(下り) ↑D ↑n ↑ギヤ比(=モータギヤ/ラック)
Tc<下り>=143.05 (g・cm)
ここで考えましょう!
直動系の加速トルクと外的(摩擦)負荷トルクについてです。
この負荷が【加速時】と【減速時】にモータを助ける方向に働くのか、それとも悪い方向に働くのか、計算上プラスになるのか
マイナスになるか?を考える必要があります。また、【上り】【下り】についても同様に考える必要があります。
●上りの加速時
→加速トルクはモータに負荷を与える方向に働くので、負荷を増やす方向、つまり計算上プラスになります。
→バネ力や物体が重力方向に戻ろうとする力(仮に摩擦力と表記します)による外的負荷トルクは、加速しようとしている
のにブレーキをかける方向に働きます。つまり、負荷を増やす方向に働くため、計算上プラスになります。
→加速:プラス(増)、バネ力:プラス(増)、摩擦力:プラス(増)
●上りの減速時
→減速トルクも加速トルク同様に、モータに負荷を与える方向に働くので負荷を増やす方向、つまり計算上プラスになりま
す。
→バネ力や物体が重力方向に戻ろうとする力(仮に摩擦力と表記します)による外的負荷トルクは、減速しようとしているも
のに更にブレーキをかけて助ける方向に働きます。つまり、負荷を軽減する方向に働くため、計算上マイナスになりま
す。
→減速:プラス(増)、バネ力:マイナス(減)、摩擦力:マイナス(減)
●下りの加速時
→加速トルクはモータに負荷を与える方向に働くので、負荷を増やす方向、つまり計算上プラスになります。
→バネ力による外的負荷トルクは、加速しようとしているのに更に押す方向に助けるように働きます。つまり、負荷を軽減
する方向に働くため、計算上、マイナスになります。
→物体が重力方向に戻ろうとする力(仮に摩擦力と表記します)による外的負荷トルクは、加速しようとしているのに更に、
ブレーキをかけて負荷を増やす方向に働きます。つまり、負荷を増やす方向に働くため、計算上、プラスになります。
→加速:プラス(増)、バネ:マイナス(減)、摩擦力:プラス(増)
●下りの減速時
→減速トルクも加速トルク同様に、モータに負荷を与える方向に働くので負荷を増やす方向、つまり計算上プラスになりま
す。
→バネ力による外的負荷トルクは、減速しようとしているものに対して更に押す方向に働きます。つまり、負荷を増す方向
に働くため、計算上プラスになります。
→物体が重力方向に戻ろうとする力(仮に摩擦力と表記します)による外的負荷トルクは、減速しようとしているのに更に、
ブレーキをかけて助ける方向に働きます。つまり、負荷を助ける方向に働くため、計算上、マイナスになります。
→減速:プラス(増)、バネ:プラス(増)、摩擦力:マイナス(減)
以上のことより、最大負荷は"上り"の"加速時"に発生 することが分かりました。
【補足】
ただし、厳密には上りの加速時の領域では、バネはまだ縮みだしている最中であり、バネの最大荷重領域には達していな
いことが推察できます。より精度の高い計算が必要な場合は、加速・減速領域におけるバネのその時点での荷重にてそ
れぞれ計算を行う必要があり、その比較を行う必要があります。
今回は擬似的な最大負荷トルクと言う点で且つ計算を複雑化させずに分りやすくする、と言う意味で"上りの加速時"が
負荷が高く、その時のバネ力が最大値に近い、と言う想定で計算します。
ここで、上述で計算した結果をまとめます。
回転系の加速トルク Tr=159.64 (g・cm)
直動系の加速トルク Tr=68.04 (g・cm)
外的(摩擦)負荷トルク(上り) Tc=511.47(g・cm)
外的(摩擦)負荷トルク(下り) Tc=143.05(g・cm)
”上り”の加速時に発生する、モーター最大負荷トルクは、
T= Tr + Tc
↑回転&直動系の加速トルク ↑外的負荷トルク(=摩擦トルク)
より、
T=(159.64+68.04)+511.47=739.15 (g・cm) モーター最大負荷トルクT=739.15(g・cm)
【補足】バネ力の妥当性確認が可能です。
外的(摩擦)負荷トルク、とりわけこの場合はバネ力(上り511.47g・cm 下り143.05g・cm)と加速(減速)トルク(159.64+
68.04=227.68g・cm)を比較した場合、外的負荷トルクが加速トルクを上回る場合、バネなどでそのワークをきちんと押さ
えつけている(拘束)機構と言えます。
加速におけるワークのジャンピングを嫌う機構の場合には、バネを強くして外的負荷トルクを加速トルクより大きくしてお
くことが大切です。また、バネの力がその機構に対して妥当かどうかの判定も今回のような計算で妥当性の確認が出来
ます。計算することは非常に便利で且つ重要だと言えます。
今回の計算事例では、上り時を見た時、外的(摩擦)負荷トルク(511.47g・cm)>加速トルク227.68(g・cm) より、バネによ
ってワークを完全に拘束している、と言うことがわかります。
下り時を見た時、外的(摩擦)負荷トルク(143.05g・cm)<加速トルク227.68(g・cm) ですが、バネの力の向きが下り時の
向きと同じ方向のため、一般的には、特に問題ないと言えると思います。






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